会社分割による別会社の設立(取得資金の調達なしで不動産を動かす方法)第1回
会社がある程度の規模まで成長すると、事業リスクや経営可視化などの観点から別会社を設立して、そこで新たな事業へのチャレンジや不動産投資・管理などを行いたいという中小企業経営者のニーズがあります。別会社を設立することで交際費損金算入枠や軽減税率枠などがもう1社分増えることから節税メリットも享受できる可能性があります。ここでは既存会社の不動産を新会社に分割で移す場合のメリットやデメリットなどについて解説します。
別会社を設立するメリットとデメリット
別会社を設立することで以下のようなメリットとデメリットが考えられます。これらを総合的に勘案して別会社化の方針を検討する必要があります。
別会社を設立する主なメリット |
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・別会社で新規事業を行うことで、新規事業のリスクを既存会社から一定程度分離できる ・本業と新規事業の成果と責任を明確化でき、従業員のモチベーションアップにも効果的 |
別会社を設立する主なデメリット |
・会社管理コストの増加(経理事務コストなど) ・新会社又は既存会社の経営が悪化した場合には1社体制への見直しとなることもある |
別会社化の主な節税メリット
別会社を設立することで以下のような節税メリットを享受できる可能性があります。
- 交際費の損金算入限度額800万円が2社分となる。(合計1,600万円の交際費損金算入枠)
- 法人税と事業税について軽減税率枠が適用できる。(約80万円程度の税額減少効果)
- 退職金を2社から受け取ることができ、一定の場合にそれぞれの退職金について退職所得控除が適用できる。
※退職金は老後の生活資金となること等から他の所得に比べて税負担が軽くなっています。
具体的には下記の算式で課税される所得が算出されますが、例えば勤続年数が30年の人の場合、退職金1,500万円までは所得税が課税されない仕組みになっています。
なお、2回以上の退職金の支給や2社以上から退職金の支給がある場合には退職所得控除の計算に一定の制限があります。
退職所得の金額=(退職金△退職所得控除)×1/2
退職所得控除
勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
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20年以下 | 40万円×A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
具体例:不動産を分割(無対価又は株式対価)で別会社化
別会社で不動産事業を行いたい場合で既存会社が保有している不動産を別会社に移すときは、別会社で銀行借入又は既存会社から別会社への貸付などにより資金調達をして、既存会社から別会社に現金譲渡することが考えられます。しかしこの場合には、以下のような留意点も考えられます。
- 別会社での資金調達に伴い銀行借入を行う場合には、銀行への不動産の担保提供や経営者の個人保証などを求められるケースが多く、銀行への支払利息や支払手数料など外部への資金流出が発生すること
- 既存会社から別会社への貸付を行う場合には、別会社は支払利息負担から資金繰りが厳しくなることや別会社の負債が大きくなってしまうこと(別会社の支払利息負担については無利息貸付としてグループ法人税制(100%グループ法人間の寄附金・受贈益)を適用することも考えられますが、ここでは割愛します。)
このような問題を解決するために、会社分割による不動産(もしくは不動産事業)の移転スキームが考えられます。シンプルな分割スキームの例としては、既存会社の100%子会社として別会社を新設分割する方法又は既存会社の100%子会社として別会社をあらかじめ設立しておき、別会社設立後に既存会社から吸収分割する方法が考えられます。
上記のような資本関係で分割が行われた場合の税務上の主なメリットとデメリットをまとめると以下となります。(税制適格分割に該当する前提としています。)
メリット |
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・不動産を無対価又は株式対価で別会社へ移すことができる。(別会社で取得資金の調達が不要) ・不動産を分割により譲渡する既存会社では不動産の譲渡損益は生じない。 不動産を分割により取得する別会社では、不動産を既存会社の帳簿価額で計上することになる。 ・不動産(建物等)の譲渡について消費税が課税されない。(なお別会社の消費税の納税義務者判定には注意が必要ですが、ここでの説明は割愛します) |
デメリット |
・分割により取得した不動産については原則として不動産流通税(登録免許税・不動産取得税)が課税される。(特例として一定の要件を満たす分割の場合には不動産取得税が非課税となります。) 登録免許税:土地・建物の固定資産税評価額×2% 不動産取得税:土地(宅地評価土地)の固定資産税評価額×1/2×3% / 建物(店舗・事務所等)の固定資産税評価額×4% |
本記事は執筆時点の日本の税法等を考慮しておりますが、一定の前提に基づく一般的な解釈について述べたものであり、特定の法人や個人に対する専門的なアドバイスまたはサービスを提供するものではありません。ご不明な点は必ず税理士などの専門家に個別にご相談の上、ご判断下さい。本記事に依拠することにより利用者が被る損失については一切の責任を負わないものとします。
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