会社分割による別会社の設立(取得資金の調達なしで不動産を動かす方法)第2回

会社分割による別会社設立の一般的な手続きを新設分割(物的分割)を例に解説します。

新設分割計画の作成

まずは新設分割計画を作成します。新設分割計画で定める主な事項は以下となります。

  • 分割期日
  • 新会社の定款の内容
  • 新設分割の対価
  • 新会社の資本金の額及び準備金の額
  • 分割する資産、債権債務、契約、労働契約の内容
  • 新会社の設立時取締役

債権者異議手続き

新設分割(物的分割)の場合は、分割会社の債権者のうち、『新設分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者』が債権者異議手続きの対象となります。
債権者異議手続きは、具体的には以下の事項を公告及び個別催告することになります。

  • 新設分割をする旨
  • 新会社の商号及び住所
  • 分割会社の直近事業年度の貸借対照表の要旨(決算公告を行っていない場合)
  • 債権者が一定の期間内(最低1か月)に異議を述べることができる旨

個別催告は知れている債権者に対して行う必要がありますが、定款において公告を、①日刊新聞紙または②電子公告のいずれかにより行うこととしている場合には、官報公告と①日刊新聞紙又は②電子公告のいずれかにより債権者異議手続きに関する公告を行うことで、個別催告を省略することが認められています。
また、①分割会社から新会社へ承継する債務がない場合や、②分割会社から新会社へ承継する債務について新会社が重畳的債務引受けをしている場合、③分割会社から新会社へ承継する債務について分割会社が連帯保証する場合には、債権者異議手続きの対象となる『新設分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者』はないことから、債権者異議手続きが不要になるケースも考えられます。

労働者保護手続き

会社分割により労働契約は自動的に新会社に承継されることになります(従業員の個別同意不要)が、労働者保護のため労働契約承継法の手続きが必要となります。
手続きの概要は以下のとおりです。手続きの詳細は、厚生労働省のパンフレットが参考になります。

  • 労働者の理解と協力を得る努力(労働者の過半数を代表する者との協議など)
  • 労働者との協議(承継される事業に従事している労働者との協議)
  • 労働者への通知(会社分割に関する事項の通知)

株主総会の承認

新設分割計画の承認は、原則として株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による賛成)が必要となります。なお、簡易分割に該当する場合(承継対象資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1以下である場合)には、株主総会決議は不要となり、取締役会決議などにより承認することができます。

法人登記

新設分割の効力発生日は、新会社の設立登記日となります。新会社の本店所在地を所管する法務局に、①新会社の設立登記と②分割会社の変更登記を同時に申請することになります。

会計処理(資本金の増加額など)

共通支配下の取引等(新会社を100%子会社として設立する場合など、分割の前後で同一の株主により支配され、その支配が一時的ではない場合(投資が継続しているとみる場合))の新設分割(物的分割)が行われた場合(分割対価:新会社株式)の一般的な会計処理は以下のようになります。

  • 新会社の会計処理
    資産及び負債は分割会社の帳簿価額で引き継ぐことになります。株主資本は分割資産から負債を控除した移転事業に係る株主資本相当額の範囲内で、資本金と資本準備金の増加額を会社が自由に決めることができ、残額はその他資本剰余金として計上します。く
  • 分割会社の会計処理
    分割により移転する資産及び負債を帳簿価額で減額し、移転事業に係る株主資本相当額は新会社株式として計上する。

このように共通支配下の取引等として新設分割が行われた場合、新会社と分割会社のいずれにも移転損益は計上されないこととなります。

その他

上記のほか、事前開示書面・事後開示書面の備置きや株主への通知(反対株主の株式買取請求)などの手続きがあります。

以上が新設分割(物的分割)の一般的な手続きとなります。スケジュール感としては、債権者異議手続きが必要なケースでは公告から最低でも1か月の期間が必要になりますので、官報の枠取りなどを勘案すると遅くとも3か月ほど前から準備を始めるとよいと考えられます。

本記事は執筆時点の日本の税法等を考慮しておりますが、一定の前提に基づく一般的な解釈について述べたものであり、特定の法人や個人に対する専門的なアドバイスまたはサービスを提供するものではありません。ご不明な点は必ず税理士などの専門家に個別にご相談の上、ご判断下さい。本記事に依拠することにより利用者が被る損失については一切の責任を負わないものとします。

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