
会社がある程度の規模まで成長すると、事業リスクや経営可視化などの観点から別会社を設立して、そこで新たな事業へのチャレンジや不動産投資・管理などを行いたいという中小企業経営者のニーズがあります。別会社を設立することで交際費損金算入枠や軽減税率枠などがもう1社分増えることから節税メリットも享受できる可能性があります。ここでは既存会社の不動産を新会社に分割で移す場合のメリットやデメリットなどについて解説します。
別会社を設立するメリットとデメリット
別会社を設立することで以下のようなメリットとデメリットが考えられます。これらを総合的に勘案して別会社化の方針を検討する必要があります。
- 別会社で新規事業を行うことで、新規事業のリスクを既存会社から一定程度分離できる
- 本業と新規事業の成果と責任を明確化でき、従業員のモチベーションアップにも効果的
- 会社管理コストの増加(経理事務コストなど)
- 新会社又は既存会社の経営が悪化した場合には1社体制への見直しとなることもある
別会社を設立する主なメリット |
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別会社を設立する主なデメリット |
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別会社化の主な節税メリット
別会社を設立することで以下のような節税メリットを享受できる可能性があります。
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法人税:所得800万円までは原則税率23.4%→15%(約67万円の税額減少効果) 事業税:所得400万円まで税率3.4%、400万円超800万円以下は5.1%、800万円超は原則税率6.7%(約19万円の税額減少効果) ※平成30年8月時点の適用税率で計算しています。また事業税の損金算入効果は考慮していません。 |
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※退職金は老後の生活資金となること等から他の所得に比べて税負担が軽くなっています。具体的には下記の算式で課税される所得が算出されますが、例えば勤続年数が30年の人の場合、退職金1,500万円までは所得税が課税されない仕組みになっています。
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具体例:不動産を分割(無対価又は株式対価)で別会社化
別会社で不動産事業を行いたい場合で既存会社が保有している不動産を別会社に移すときは、別会社で銀行借入又は既存会社から別会社への貸付などにより資金調達をして、既存会社から別会社に現金譲渡することが考えられます。しかしこの場合には、以下のような留意点も考えられます。
- 別会社での資金調達に伴い銀行借入を行う場合には、銀行への不動産の担保提供や経営者の個人保証などを求められるケースが多く、銀行への支払利息や支払手数料など外部への資金流出が発生すること
- 既存会社から別会社への貸付を行う場合には、別会社は支払利息負担から資金繰りが厳しくなることや別会社の負債が大きくなってしまうこと(別会社の支払利息負担については無利息貸付としてグループ法人税制(100%グループ法人間の寄附金・受贈益)を適用することも考えられますが、ここでは割愛します。)
このような問題を解決するために、会社分割による不動産(もしくは不動産事業)の移転スキームが考えられます。シンプルな分割スキームの例としては、既存会社の100%子会社として別会社を新設分割する方法又は既存会社の100%子会社として別会社をあらかじめ設立しておき、別会社設立後に既存会社から吸収分割する方法が考えられます。
上記のような資本関係で分割が行われた場合の税務上の主なメリットとデメリットをまとめると以下となります。(税制適格分割に該当する前提としています。)
メリット | ||||
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デメリット | ||||
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次回
次回は分割の具体的な手続きについて解説する予定です。
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